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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)241号 判決 1974年10月30日

原告 堀内文吾

被告 王子税務署長

代理人 中村勲 外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  原告の請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  昭和三四年分から同三六年分までの所得税の更正等について

(一)1  別紙目録一記載の物件が、昭和三四年四月二三日並木鎌次から鈴木良作名義で取得され、同年八月一五日鈴木良作名義で日立家庭電器販売株式会社に代金一、五九〇万円で譲渡されたことは、当事者間に争いがなく、(証拠省略)によれば、右物件の取得価額は、一〇、三七四、三〇〇円であつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

2  別紙目録二記載の物件が昭和三〇年一〇月一八日第二浮間土地区画整理組合から鈴木良作名義で取得されたこと、別紙目録二(イ)記載の物件は、昭和三五年七月七日鈴木良作名義で安全石油株式会社に代金四、八〇〇万円で譲渡されたことは、当事者間に争いがなく、(証拠省略)によれば、右物件の取得価額は五、九五六、六五〇円であつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

3  別紙目録三(イ)記載の物件が昭和三四年一〇月三日頃磯部武夫ほか二名から、同(ロ)記載の物件が同月二一日頃高倉岩次郎から、いずれも鈴木良作名義で取得され、昭和三六年五月二五日頃鈴木良作名義で籔崎銀三郎に代金六、七八三、九〇〇円で譲渡されたことは、当事者間に争いがなく、(証拠省略)によれば、右物件の取得価額は、(イ)については一〇万円、(ロ)については五九六、〇〇〇円であつたことが認められ(証拠省略)の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  そこで、本件の主要な争点である右各物件は原告の資産であつたかどうかについて検討する。

1  原告は、右各物件は、いずれも堀文商店が鈴木良作名義で取得し、かつ、譲渡したものであるから、譲渡所得の帰属者は原告ではなく、堀文商店であると主張し、被告は、右の譲渡所得の帰属者に関する原告の主張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法であるから、民事訴訟法第一三九条一項の規定により却下を求めると主張するので、まずこの点について判断する。

原告が、昭和四四年三月六日の第一回口頭弁論期日以来、譲渡所得の帰属者を鈴木良作と主張してきながら、昭和四七年三月八日の第一五回口頭弁論期日において陳述した同日付準備書面により、その主張を改め、譲渡所得は堀文商店に帰属するとの新たな主張を提出したことは、本件記録に照らし明らかである。しかしながら、第一五回口頭弁論期日当時、同期日に被告から提出された(証拠省略)その他の書証の認否及び原告本人の尋問等、なお重要な証拠調手続のため期日の続行を必要とする状況にあつたことは記録上明らかであり、また、原告は、当初から譲渡所得が自己に帰属しないと主張していたのであり、その点に変りはないのであるから、右の段階に至つて、その帰属者について主張を変更しても、そのために特段に訴訟の完結を遅延せしめるものということはできない。したがつて、被告の主張は理由がない。

2  (証拠省略)の結果の一部及び本件口頭弁論の全趣旨を合わせると、次の事実を認めることができる。原告は、食肉卸商を営む堀文商店の代表取締役であるが、同商店は昭和三三年秋頃被告により法人税の調査を受けたところ(税務調査を受けたことは、当事者間に争いがない。)同族会社である堀文商店の帳簿は、会社資産も原告の個人資産も混然として区別されていない有様であつた。当時鈴木良作名義で取得されていた別紙目録二記載の物件も、堀文商店の簿外資産との疑いが持たれて税務調査の対象となつたが、原告は、被告の係官に対し、右物件は堀文商店のものではなく、原告の妻の兄である鈴木良作が堀文商店からの借入金で取得したものであると申し立て、その証拠として、鈴木良作に無断で作成した同人名義の念書(証拠省略)を提示し、一方原告は、同人に対し、税務調査の際には同人の資産である旨説明するよう指示し、昭和三四年二月六日には原告立会の下に被告の係官に対しその旨の供述をさせた。被告係官は、原告の申立てに疑問を抱きながらも、申立てを裏づける資料が存在することから、結局、同物件を鈴木良作の資産として把握するに至つた。その後前認定のように、いずれも鈴木良作名義で別紙目録一及び三記載の物件の取得並びに別紙目録一から三まで記載の物件の譲渡が行われたものであるが、いずれも鈴木の実印を保管していた原告が、鈴木良作名義又は鈴木良作の代理人名義を用いて、売買契約の締結、代金の授受等の取引行為をした。なお、右の取引行為に関する契約書、領収書等には、鈴木良作の代理人として「堀内文吾」と表示したものと、「有限会社堀文商店代表堀内文吾」等と表示したものとがあるが、後者の場合にも名下の捺印は前者の場合と同一の原告個人の認印が用いられている。また、別紙目録四記載の物件は、鈴木良作名義から原告名義に所有権移転登記がされた(このことは、同目録(イ)及び(ロ)記載の物件については、当事者間に争いがない。)が、原告から鈴木又は堀文商店に買受代金の支払いはされていない。

被告は、原告の申立てに基づき、昭和三四年分、同三五年分の譲渡所得について鈴木良作に対し課税処分をしたのであるが、同人が納税しないため調査したところ、鈴木は、各物件取得の経緯は何も知らず、右はすべて原告が鈴木の名義を冒用して行つた取引であると述べ、これにより、原告が右各物件を鈴木の資産であるかのように仮装、隠ぺいをしていたことが判明した。しかし、原告は、その後も本件訴訟の第一四回口頭弁論期日までは、前記各物件が鈴木良作の資産であつた旨一貫して主張していたが、本訴の証拠調べの結果、鈴木は右各物件の取得及び譲渡について何も知らなかつたことが立証されるに及んで、第一五回口頭弁論期日において、一転してそれらが堀文商店の資産であつたと主張するに至つた。

以上の事実が認められ(証拠省略)の結果のうちには、右認定に反する部分があるが、同供述は正確さ及び真摯さに欠け、到底信用できないものであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実関係によれば、堀文商店と原告個人の財産関係はもともと全く区別されておらず、右各物件の取得及び譲渡も、取引に用いられた名義のいかんに拘らず、すべて原告個人の意のままに行われたことが明らかであつて、右のような状況の下においては、右各物件は、堀文商店の資産に属していたと認めるべき特段の事情のない限りは、原告が全く自由に支配、処分し得る原告個人の資産であつたと認めるのが相当である。

3  原告の主張するように、もし別紙目録一から三まで記載の物件が堀文商店の資産であつたとするならば、取得のための資金が堀文商店から支払われていること、堀文商店がこれを自己の資産として管理、支配していること、譲渡代金、譲渡益が堀文商店に入金されていること等の事情がなければならない筋合いであるところ、この点について原告は、右物件の譲渡益は堀文商店の資産として処理されていると主張する。

しかしながら、前認定の事実に(証拠省略)の結果の一部並びに本件口頭弁論の全趣旨を合わせると、原告は、昭和三四年四月堀文商店から鈴木良作名義で借り入れた一、〇〇〇万円を購入資金として別紙目録一記載の物件を購入し、右物件を日立家庭電器販売株式会社に売却した代金一、五九〇万円のうち、一、〇〇〇万円は堀文商店に対する借入金の返済にあて、残五九〇万円は、別紙目録三及び四記載の物件の購入資金にあてたこと、別紙目録二記載の物件は、深沢今朝一が原告と共同で購入すべく話をすすめていたところ、原告が鈴木良作名義で堀文商店から九、五四四、六五〇円を借り入れたうえ、同人名義で右物件を購入したこと右物件のうち(ロ)の物件は、昭和三三年六月原告が佐藤工業株式会社に代金一、七〇〇万円で売却し、売却代金の一部は右借入金の返済にあてられたこと、右の譲渡に伴う譲渡所得は、原告が昭和三三年分所得税として昭和四七年六月二日納付したこと、以上の事実を認めることができる。そして、別紙目録二記載の物件の残部同(イ)の物件は、昭和三五年七月七日安全石油株式会社に売却されたのであるが、その売却代金あるいは譲渡益が堀文商店の建築資金等の経費として費消されたとする原告本人の供述部分は、具体性を欠き明確でなく措信することができず、他に右譲渡益が堀文商店の資産として処理されたことを認めるに足る証拠はない。

4  また、原告は、税務調査の結果、被告は別紙目録一から三まで記載の物件が堀文商店の資産であることを認めていたものであり、かつ、被告の指示によりやむを得ず購入代金を鈴木良作に対する貸付金として処理せざるを得なかつたと主張するけれども、前認定の事実に照らし到底採用することができない。

5  以上認定した事実に照らすと、別紙目録一から三まで記載の物件は、原告の資産であつたと認めるのが相当である。

(三)  そこで、別紙目録一、二(イ)及び三記載の物件の課税譲渡所得の額を計算すると、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下おなじ)第九条第一項の規定により、その額は、昭和三四年分二、六七八、八五〇円、昭和三九年分二〇、九四六、六七五円、昭和三六年分二、九六八、九五〇円となる。そして原告が、確定申告に際し右各譲渡所得を計上しなかつたことは、当事者間に争いがないから、これを加算してされた右各年分の所得税の更正及び昭和三四年分の過少申告加算税の賦課決定に違法の点はないといわなければならない。

三  昭和三七年分の所得税の更正等について

(一)  別紙目録記載の物件が昭和三四年一一月一一日頃株式会社大谷場荘から鈴木良作名義で取得されること、その後、別紙目録四(イ)及び(ロ)記載の物件については、原告名義に所有権移転登記手続がされ、原告は昭和三七年八月七日頃同物件を三楽不動産に代金一、四四〇万円で売却したこと、同(ヘ)記載の物件については、見津実が公簿上の所有名義人鈴木良作に対して先順位の所有権移転仮登記に基づき仮登記を本登記とすることの承諾を請求し、同物件の所有権を取得したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、別紙目録四(イ)及び(ロ)記載の物件の取得価額について検討する。

前記二において認定した事実に、(証拠省略)並びに本件口頭弁論の全趣旨を合わせると、別紙目録四記載の物件も原告が鈴木良作名義をもつて代金一、〇〇〇万円で取得した事実を認めることができ、(証拠省略)の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして、特段の主張、立証のない本件においては、別紙目録四(イ)及び(ロ)の物件の取得価額は、同目録四記載の物件の取得価額を同物件の面積と同(イ)及び(ロ)の物件の面積との比で算定するのが相当と解されるところ、前認定のとおり原告は、同(ヘ)の物件の所有権を失つたから、同(イ)から(ホ)までの物件計一、六六六坪を一、〇〇〇万円で取得したこととなるというべきである。したがつて、右物件の一坪当たりの価額は六、〇〇〇円であり同(イ)及び(ロ)の物件の面積は計七二〇坪であるから、その取得価額は四三二万円と認めるのが相当である。そうすると、右物件の課税譲渡所得の額は、旧所得税法第九条第一項の規定により四、九六五、〇〇〇円となるところ、原告は、確定申告に際し、右物件の課税譲渡所得として二、七一四、二五〇円を計上していたに過ぎないことは当事者間に争いがないから、その差額を加算してされた昭和三七年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定にも違法な点はないといわなければならない。

四  よつて原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 時岡泰 青柳馨)

別表

年度

区分

年月日

課税標準(所得金額)

過少申告加算税額

三四

確定申告

三五、三、一二

一、五六三、六五八

更正

四〇、三、一二

四、二五一、五〇八

五二、〇〇〇

三五

確定申告

三六、三、一五

三、〇五七、六〇〇

更正

四一、三、一一

二四、〇〇四、二七五

三六

確定申告

三七、三、一五

三、五七五、七五〇

更正

四一、三、一一

六、五四四、七〇〇

三七

確定申告

三八、三、一五

六、六四九、〇〇〇

更正

四一、三、一一

八、八九九、七五〇

五六、四〇〇

別紙目録(一)ないし(四)(省略)

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